ボレロ - 第二楽章 -
春の庭を愛でながら歓談をするという、名目上どおりの会が始まった。
何度かお会いした方、初めての方、ご両親が一緒の人もいれば、紹介者が
かいがいしく世話を焼く人もおり、それほど私との縁談は魅力的なのかと
錯覚を起こしそうなほどで、招待者の力の入れようが伝わってくるという
ものだ。
その中で櫻井さんは落ち着いたもので、可南子叔母の相手をしながらどきどき
私に語りかけ、父の相手もこなすソツのなさだった。
パーティーが始まってほどなく、、北園さんが父に呼ばれて会場に入ってきた。
表立ったスタッフではない人がこうして表面に出ることは珍しく、それも
中央のテーブル付近に立ち父と櫻井さんを相手に話を始めたのだ。
何事かと気になり庭園奥に控えていた泰信さんに聞くと、
「見事な手入れなので、職人に話を聞きたいと親父が呼ばれたんです。
我々にとっては嬉しいですね。
庭を気に入ってくださって、話を聞いて興味を示してくださるんですから」
「そうだったの。あの方が庭に興味があったなんて意外だわ。
興味があるのは、この家と私の背景だけかと思っていたわ。
彼のこと、ヤスさんはどう思います?」
「えっ、それじゃあの人が有力候補かぁ。櫻井さんでしたね。
さっき、俺にも挨拶をしてくれましたよ。
お嬢さん、いい人が見つかったんじゃないですか」
親方であるお父さんと同じく、小さい頃から顔見知りの泰信さんとは気安く
話が出来る間柄だった。
お父さんが呼ぶように 私も ”ヤスさん” と呼ばせてもらっている。
庭をお見せしたいと招待したのだから、それを褒めてもらえるのは、
主催したこちらとしても嬉しいことではあったが、私はなにか釈然と
しないものを櫻井さんに感じていた。
「なにを言いやがる。ヤス、だからおまえはまだ半人前だっていうんだよ」
「何でだよ」
父のテーブルから離れた北園さんは、まっすぐ私たちの方に歩いてくると
こんなことを言い出した。
「櫻井さんが北園さんにお話を聞いたのはパフォーマンスだと、
そういうことですね」
「私はパフォーマンスってのがどんなのか知りませんが、
あの人は自分の見せ方を良くご存知だ」
「親父、どういう意味だよ」
「まだわからないのか。庭を見てもらう会を催した。
招かれた方は、まず庭を褒めるのが礼儀だ。
自分がいかに感動したかを主に伝える人は、まぁ、それなりに心得た人だな。
それだけならいいが……
あの人は、私ら庭師を呼んで話を聞きたいと言い出した。
それも人目につくところでね。そこがどうもねぇ……」
「いいじゃないか、こちらとしても名誉なことだ。それの何がいけないんだよ」
「ふふっ、やっぱりね。私もそうだと思ったわ」
ひとり理解できていないヤスさんを横に、私と北園さんは二人だけに通じる
忍び笑いを見せ合った。
北園さんのお目にとまった方がいまして? と聞くと、北園さんはニヤッと
笑いながら庭園奥へ視線を移し、ドリンクグラスを手に庭を眺める男性を
見据えた。