ボレロ - 第二楽章 -


爆発音はどう誤魔化すのかと質問すると、花火を打ち上げて客に楽しんでもらう

のだと、潤一郎の楽しそうな返事があり、紫子と佐保さんが 「すごいわ」 と

歓声を上げた。 


「真冬の花火ショーか。客は喜ぶだろうね。客の目は空に向けられ、

その間に事件解決か。潤一郎さん、さすがだよ」


「いえ、褒めてもらうのは計画が成功してからということで……

須藤さん、相談ですが、アクセサリーを届ける際、こちら側の存在を

珠貴さんに知らせておきたいのですが、何か良い物がありませんか」


「どうやって渡すつもり?」


「そこが難しいんだ。誤って持ち出してしまったお詫びとして、

花束でも添える。その中に、何かを隠して届けたい。

小さなもので、珠貴さんにわかる品物があるだろうかと思って」


「珠貴の母親の指輪などどうでしょう。

母親がいつも身につけている指輪なら、珠貴も見覚えがあるはずです」



知弘さんの提案にみながうなずき、それはいいと口々に言う。

そのとき、私の頭にあることが浮かんでいたが、それを言い出そうかと悩んでい

た。



「花束もいいでしょうが、そのまま飾られてしまったら指輪に気がつかない

恐れもありますね。お菓子の中に入れてはどうでしょう。

そうだわ、チョコレートでコーティングしてはいかがでしょう」


「佐保さん、それいいアイディアだわ。

チョコレートにくるんでしまえばわからないもの。 

女性なら必ず口にすると思います」



決まりですね、ではすぐに義姉から指輪を借りてきますと知弘さんが立ち上が

り、部屋から出て行こうとしたその背中に声をかけた。



「待ってください」


「どうした。何か気になることでもあるのか」


「そうじゃないんだが……」



怪訝そうな潤一郎の顔に見据えられ、呼び止めるためとっさに声を出したもの

の、気持ちがひるみかけた。

それでも知弘さんを引き止めてしまった理由を言わなくてはと、気持ちを決め言

葉にする。



「これを……」



珠貴が姿を消してから、毎日身につけていたカフスをはずし、みなの前に差し出

した。



「これを使って欲しい」


「宗一郎さん、どうしてこれを?」



紫子の顔が怪訝そうに私を見つめる。



「珠貴からのプレゼントなんだ……彼女が選んでくれたカフスだから、

すぐにわかるだろう」


「プレゼントって、宗一郎さん? えっ……」



紫子の問い詰めるような声に、どう返事をしたものかと迷い、無言のまま顔を背

けた。

狩野がニヤッと笑う横で、佐保さんは目を潤ませて成り行きを見守り、

知弘さんは 「そうですね、それがいいでしょう」 と静かに同意してくれた。

「宗一郎さん、どうして黙ってたの。ひどいわ!」 と紫子の声が部屋に響く。



「わかった……宗の大事な物を預かるよ」



弟の手に渡したカフリンクスは、珠貴の元へと運ばれることになった。
 





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