ボレロ - 第二楽章 -
手を伸ばせば届く距離に珠貴がいる。
触れた頬は温かく目を閉じたまま 「おはよう」 と唇が動いたが、すぐに
胸元へと体をよせてきて、目覚めたばかりの顔がじっと私を見つめた。
「おはよう。起こしたかな」
「うぅん、目は覚めてたの。宗のそばは温かくて離れたくないけど……」
離れたくないと言いながらも腕の中からするりと抜け出し、ガウンを羽織り
窓辺へと歩き出した。
カーテンを開け放し 「いいお天気よ」 と朝日に体を向ける。
当たり前のことが、ついこの間までそうではなかった。
居場所を突き止めながら、動けないもどかしさがあり、救出目前にして、旅立
たなければならなかった悔しさがあった。
無事であったとわかっても、次はいつ会えるとも知れぬ自分の立場を、どれほど
恨めしく思ったことか。
それが今、テーブルを挟んで共にする食事の美味しさや、肩を寄せ遠くの景色を
眺める喜びがあり、名前を呼べばすぐに振り向いてくれる顔がある。
それだけで嬉しかった。
朝日を充分に浴び、ベッドに腰掛けた珠貴が唐突に話をはじめた。
「チョコレートの中からカフスが出てきたとき、私がどんなに驚いたかわかる?
宗が来てくれた、そばにいるんだとわかって体中が震えたわ。
自分を抱きしめて、嬉しさを感じたの……
あなたのカフス、それからずっと持ってるのよ。私のお守りだから」
「俺もそうだった。指輪を見せられたとき、体が震えたよ」
「えっ、指輪、見つけてくれたの?」
イヤリングだけが返ってきたので、指輪はなくなったものとあきらめていたと
いう。
ここに持ってるよ、とジャケットのポケットから取り出し、珠貴の手をとり指
にはめた。
いとおしそうに指輪を眺めていたが、口元へと手を寄せ、そっと口づけた。
「迷ったのよ。あなたからもらった指輪を手放して、
もし戻ってこなかったらって……でも、よかった」
泣きそうな顔をなぐさめるために、体ごと懐に引き寄せた。
肩のガウンが落ちて露になった背中がまぶしかった。
朝日が差し込む部屋はまばゆく、珠貴の肌を美しく引き立てる。
肩に触れた唇に、彼女の体がピクンと反応した。
カーテンを閉めて……と、もう甘い息になった声がしたが、嫌だ……と聞き入れ
ない。
背中に隙間なく唇をおき、足元へと降りていく。
引き締まった足首までたどり着き、足の甲を握り口元へと持ち上げた。
指を口に含むとさらに甘い吐息がもれ、恥ずかしそうに身をよじりながらも私の
愛撫を受け入れている。
もうおくところがないのではないかと思うほど、珠貴の体を接吻で覆いつく
した。