ボレロ - 第二楽章 -
リカルドが私を探しているのが本当なら、宗が言うようにおとなしくしていな
ければならないだろう。
家族と一緒に過ごすために帰国したのだから、文句など言っていられないけ
れど……
「このまま誰にも会えず家で過ごすのね。寂しいクリスマスだわ」
「仕方ないだろう。こうなったら、やはり家には帰るのは避けた方がいい。
まだ取材陣が張り込んでいるそうだ」
「母から聞いているわ。玄関前に取材らしい車が毎日止まっているそうね。
それで私はどこへ行けばいいの?」
「知弘さんの別荘だよ」
「知弘さんの……わかったわ」
「あとから、紗妃ちゃんやご両親もいらっしゃるそうだ」
「宗は、もう帰るの?」
「俺は一緒に行けない」
表情も変えずに彼が言う。
一緒に行けないのはわかるけど、せめて寂しそうな顔をしてくれたらいい
のに……と思った途端、哀しくなり目の前がぼんやりとにじんできた。
こんなはずじゃなかった。
もっと、楽しい時間が持てると信じて帰国したのに……
人助けのつもりで声を掛けたことから思ってもみない事態を引き起こし、自業
自得とは言え寂しいクリスマスを過ごさなければならない我が身が恨めし
かった。
知弘さんの別荘へ続く道の中腹にあるレストランの駐車場につくと、見覚えの
ある車が止まっていた。
「ついたよ。俺はここまでだから」 と宗がつれない様子で車から降りるように
私を促した。
別れたくないと思っているのは私だけ……
寂しさにうつむくと頬に手が添えてくれたが、それも一瞬だけ。
頬に触れた手が恋しくて 次はいつ会えるの? と聞いてみたが、曖昧に笑う
だけで返事はもらえず、車から降りてきた知弘さんに私を引き渡すと、宗は
振り向きもせずに帰っていった。