ボレロ - 第二楽章 -


「朝からすごく賑やかなのよ。

大勢の人が出入りして、大規模なケータリングって感じ」 


「大掛かりなパーティーみたいね」


「うん……よくわからないけど、そうみたい」


「お仕事のお客様でしょう? 個人的にお招きするなんて、

よほど大事な方々なんでしょうね」


「さぁ……どうかなぁ」


「どうかなって、なにか知ってるの?」


「うぅん、そんなことない。全然ないから」



無関心かと思えばそうでもなく、強く否定しながらハッキリしない。

紗妃らしくない返事に、この子は何かを隠しているのではと感じた。



「本当はどうなの」


「えっ?」 
 

「私に隠してるでしょう」


「隠してない……」


「紗妃ちゃん、ほら、言っちゃいなさいよ」


「ダメダメ、言えない。絶対言っちゃダメって、あっ……」


「誰がダメって言ったの?」


「もーっ! これ以上聞かないで。お願い」



じっと紗妃の目を見て問い詰めたが、口に手を当て大きく首を振る。

何があっても言えない、言わないという大げさな仕草を見せた。



「わかった、聞かない。聞かないけど、ひとつだけ教えて。

私はこのドレスを着ればいいのね?」 


「……聞かないって言ったじゃない。ダメ、私、言えない……」


「じゃぁ、プレゼントあげない」


「えーっ! なにそれ。わけわかんない」


「そっ、じゃ聞かない」


「うっ……」



紗妃の苦悩した顔がおかしくて、くくっと笑いがこみ上げてくる。

昨日の宗と漆原さんの会話や、宗の素っ気無い様子と朝から賑やかな屋敷内

の様子、母が持ってきたドレス、そして、紗妃の怪しい態度から、私には秘密

の物事が進行中のようだ。

言い出したのは、きっと知弘さんってところね。

では、今夜いらっしゃるのは……紫子さんと潤一郎さん、狩野さんに佐保さん、

櫻井さんと……宗も……

彼はどんな顔をしてくるのかしら、私は何も気がついていないと思っているの

でしょうね。


「ねぇ、プレゼントは本当にないの?」 と紗妃らしい心配に 

「どうしようかなぁ」 と意地悪な返事をしながら、今夜の楽しい時間の想像

を始めた。




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