ボレロ - 第二楽章 -
「お忙しい中お集まりいただきまして、本当にありがとうございました。
あらためまして、私からもお礼を申し上げます」
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」
「とても素敵なパーティーでしたわ。準備も大変でしたでしょう」
大勢を招いた会がお開きになると、あらかじめ声がかけられていた面々だけが
残り、あらたな席が用意された。
知弘さんのあらたまった挨拶の後に、潤一郎さんと紫子さんからねぎらいの言葉
があり、みなから楽しい会だったと感想を述べられた。
こうして顔を合わせるのは久しぶりですね、と狩野さんが切り出し、話は事件の
話題へと移っていた。
櫻井さんから、事件後わかったことなど踏み込んだ話があり、そのような複雑な
事情があったんですかと、霧島さんや平岡さんは驚いていた。
私の救出に直接関わることのなかった美那子さんは、あれこれと紫子さんと
佐保さんに質問を向け、女性らしい観点で事件の興味を追及している。
十数人が座るテーブルは二つの話題に別れ、それぞれの話が弾んでいた。
宗は男性側の話題に加わり、私は女性の輪の中にいた。
隣りに座る宗とは、とんど言葉を交わしていない。
けれど、私の気持ちはこのあとの予定へと向いていた。
テーブルには、目にも鮮やかなデザートが並んでいる。
それらは、『シャンタン』 のオーナー羽田さんから届いたもので、宗を通じて
渡されたカードには、『明晩、お待ちしております』 と書かれていた。
「明日、シャンタンに?」 と、宗に尋ねると、「今夜から出かけるから、その
つもりでいて」 とすばやく返事があった。
クリスマスを二人で過ごす計画を立ててくれているとわかり、体中が嬉しさで満
たされた。
「それでは、これで」 と、知弘さんが楽しい席の終わりを告げたとき、にわか
に廊下が騒がしくなり、小競り合いの声が聞こえてきた。
何事かと、みなの注意がドアの向こうへと注がれる中ドアがノックされ、知弘さ
んが対応していたが、しばらくののち振り向き困った顔を私に向けた。
「リカルドが珠貴に話があるそうだ。どうする」
「お話ってなにかしら。うかがいます」
瞬時に宗の顔色が変わり、立ち上がろうとした私の腕をつかまえ、行くなという
ように顔を横にふる。
話を聞くだけだから大丈夫よと言っているところに、リカルド本人が部屋へと
入ってきた。
「会えましたね。僕が言ったとおりだった」
「先ほどはありがとうございました。素晴らしい歌でした」
「あなたのために心を込めて歌いました。タマキ、あなたの顔を見つけた僕が、
どんなに驚いたか、きっとわかってもらえるだろう。
これは運命だった。そう……僕たちの再会は、運命で決められていたんだ」
「リカルドさん……」
「タマキ、僕の心を受け取って欲しい」
私のそばにひざまずき、懇願するような目で求愛する彼の姿に、みな驚きながら
成り行きを見守っていたが、宗だけは険しい表情でリカルドを見据え、搾り出す
ような声で私に尋ねた。