ボレロ - 第二楽章 -
「あの……みなさん、宗一郎さんのこと、ご存知ですのね」
紫子のさぐるような問いかけに、静夏と大叔母は複雑な顔をした。
「えっ、えぇ。私はお月見の会で、あちらのおばあさまとご一緒したものです
から。そのとき……あのお嬢さんかしらと思って。いえね、宗さんがハッキリ
おっしゃったのではありませんけど、お二人の雰囲気がとてもよろしくて」
「大おばさま、珠貴さんのおばあさまにお会いになられたの?」
「静夏ちゃん、珠貴さんをご存知なの?」
「宗のマンションで偶然お会いして……あっ……」
睨みつけると、しまったという顔になったが、静夏は舌を出して悪びれる様子
もない。
マンションで鉢合わせしたなど、とんだことを言ってくれたものだ。
紫子も大叔母も驚きながら、次々と静夏に質問を浴びせている。
「静夏ちゃん、帰国したばかりなのに、珠貴さんとはいつ?」
「珠貴さんが、お母さまのブローチを届けてくださったときだから……
えーっと、一昨年の夏だったかしら。宗のマンションの玄関でバッタリ」
「あなた、その方が宗さんのお相手の方だと、すぐにわかったの?」
「えぇ、それはもう、二人で見詰め合って、私は邪魔だと言わんばかりでした
から」
「まぁ、そんな前から……」
「いいえ、大叔母さま、もっと前ですって。珠貴さんからお聞きしたから間違い
ありません。3年ほどはお付き合いがあるんじゃないかしら」
「3年も……おばさまも静夏ちゃんもご存知だったのね。私と潤一郎さんは、
ついこの間お聞きしたばかりなのよ」
「そうなの? 潤やゆかさんは知ってるとばかり思ってたわ」
「静夏!」
それ以上言うなと釘をさしたが、開き直った台詞が返ってきた。
「そんなに睨まないでよ。いまさら隠してもしかたないじゃない。もうとっくに
バレてるんだから、早く公表した方がいいと思うけど。どうして隠す必要が
あるの?」
「俺だってそのつもりだったよ。この席ならみんな集まってる、いい機会だと
思ったよ。ところがどうだ、あぁ勝手に思い込まれたら、訂正のしようがない
じゃないか」
「お母さまのあの勢いでは、これから大変よ。ぐずぐずしてないで、さっさと
言えばよかったのよ。ほんっと、タイミングが悪いんだから」
「お義母さま、張り切っていらっしゃったから」
静夏はここぞとばかりに私を責め立て言いたい放題で、そんな妹に紫子まで
同調している。
「宗さんが迷う理由は、珠貴さんが須藤のお家を継がれる方だからね。そうで
しょう?」
大叔母はさすがに思慮深く、私たちの事情を察知したようだ。
えぇ……と肯定した私へ、眉を寄せて気の毒そうな顔を向けてくれた。
「だから何よ。そんなの最初っからわかっててお付き合いしてるんでしょう?
黙ってこそこそなんて、宗らしくないわ。いくらだって方法はあるはずよ」
「お前に言われなくても考えたさ。無責任なことを言うな」
「無責任じゃないわ。心配してるから言ってるんじゃない。
さっきだって、お母さまに、お付き合いしている人がいますと、ひとこと言えば
済んだことじゃない。どうするのよ。あの調子では、山ほど縁談を抱えてくる
わよ。あーもぉ、じれったいわね」
「これは俺の問題だ、口出しするな!」
返事に詰まった静夏は、とりあえず次の言葉を飲み込んだが、目は潤み悔しそ
うに私を睨みつけている。