ボレロ - 第二楽章 -


静夏やみんなの心配がわかっていながら、口を挟まれることが我慢ならず反論

していた。

けれど、静夏の言うことにも一理ある。

お袋にはっきりと意思表示しなかったのはまずかった。

持ち込まれる縁談を断るにしても、大変なエネルギーだろう。

気持ちが決まった相手がいるというべきだった。

この先の展開を想像しただけでげんなりしてきた。



「解決方法はあると思うけどね」



それまで黙っていた潤一郎が唐突に口を開き、みなの顔色が変わった。



「どんな方法なの?」


「いや、それは……必ず道はある、とにかく前に進め。って、ひいおじいさまの

言葉にもあるだろう」


「なんだ、そういうこと。潤のことだから、とっておきの解決方法でも見つけた

のかと思っちゃったじゃない」



女たちが一斉に口を開き、ホント男の人って役に立たないわね、などとまたも

勝手にことを言い出したが、私には、潤一郎の言葉が心強く響いた。

”答えはすでにお前の中にあるんだろう そうじゃないのか?” そう問いか

けている。 

ゆかや静夏にこきおろされ潤一郎の顔は苦笑していたが、目は笑ってはい

ない。

あの非常事態の経験から、弟も同じことを考えていたようだ。

確かに道はある、けれど、それは私にとっても珠貴にとっても険しいものだ。

ことに珠貴には大きな負担となる。

先の珠貴の事件で、おそらく珠貴も私と同じ手応えを得たはずだ。 

けれど、それを選ぶとすれば、私たちの進む道はもっとも困難なものとなる。

あえてその困難を進めというのか……

かしましい女たちに気づかれないように、弟の顔をそっと見て小さくうなず

くと、潤一郎の口元が意味ありげに笑った。



「お母さんたちが戻ってくる前に、席をはずした方がいいんじゃないか」


「あぁ、そうするよ」


「そうね。ここにいたら、小浜さんのお嬢さんを紹介されちゃうわよ」


「でも、宗一郎さんが急に帰られたら、おふたりとも心配なさるんじゃない

かしら」


「私にいい考えがあるわ。私の忘れ物を取りにいってもらったことにしま

しょう。そこで急なお仕事が入ったとでもいえば、こちらに戻らなくてもいい

でしょう。宗さん、早くおいきなさい。好きな人と一緒に新年を迎えられない

なんて、こんな残念なことはありませんよ」



80歳をとうに超えている大叔母にいわれ、恥ずかしさを隠しながら頭を下げ、

すぐにテーブルを離れた。

出口でお袋に見つかり、どこへ行くのかと呼び止められたが、すぐに戻るからと

言い残し、家族の元から逃げだした。





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