ボレロ - 第二楽章 -
「携帯の電源を入れて驚いた。着信メッセージだけで10件だよ。
それも全部お袋から」
「急用でも?」
「いや、すべて君に会わせろという伝言だった」
「あら……」
「いつ紹介してくれるのか、出来るだけ早く会いたいというのが最初、
それから、会うならどこがいいとか、食事の席を設けてほしい、
時間帯は夜の方がゆっくり出来るのではないか、場所はホテルがいい、
狩野さんにお願いしましょうかとか、思いついたことを全部
メッセージに残したんだろう。聞くだけでも、相当な時間だった」
手は胸をさまよったままで積極的に動くことはなく、 困った顔が指先を目で
追っている。
「どうするつもり?」
「どうするもこうするも、最後のメッセージを聞いたら全部決まっていた。
俺の返事を待てなかったんだろうが、まいったよ」
「まぁっ、すごい」
「紹介するとは言ったが、お袋に仕切られるとは思わなかったな。
親父のときは立ち話だったのに、君をお袋に会わせる場は会食の席だ。
大事になったな」
いかにもお母さまらしいと思ったものの、それを口にすることは出来ず、ナイ
ショねと言われたお顔を思い出し忍び笑いがこみ上げてきた。
彼の手に委ねていた体をよじり、うずくまって笑いをこらえるが、体が震えて
笑いが漏れてしまう。
「笑いごとじゃないよ。お袋のことだ、手ぐすね引いてを君のことを
待ってるだろうから、何を聞かれるかわからないんだぞ」
「何でもお答えするつもりよ。私のことをよく知っていただきたいもの」
「なんだか、この前とずいぶん違うね」
「そんなことないわ……」
これ以上おしゃべりが続いては、お母さまとの約束を守れなくなってしまいそ
うで、自分の口を封じるために、肘を突き見下ろす宗の顔を見ないように体を
絡めた。
君がそう思うならいいけど……まだ不満の残る声を漏らしながらも、目的を
持った手が私の体を引き寄せた。
素肌を伝う彼の手に意識を集中させ、小さくくすぶっていた熱を全身に広げて
いく。
触れ合うことで火照るような感覚は瞬く間に訪れ、そこに複雑な感情の入り込
む隙はなく、互いを欲するという、純粋な思いだけが存在する時間が流れて
いた。
さらされた肌が色づくころ、体の奥の欲求は抑え切れないものとなり、とけあ
うような接吻のはざま、こらえきれない熱い息を吐き出す私に満足すると、
彼は最後の坂を駆けのぼった。