ボレロ - 第二楽章 -


彼が次男であることから上手くいくと思っていたようだが、思惑どおりに

ことは進まず、甥は他の女性と婚約という事態に、叔母は慌てふためいていた

とのことだった。



「先輩が想像したとおり、霧島さんは今回のことをずいぶん気にして、 

須藤家へどう詫びようかと悩んでいるらしいと……

事業面でなんとかとりなしたいと考えているそうですが、上手くいきますかね」


「平岡、霧島君に連絡が取れるか?」


「えぇ、それはできますけど。先輩、何を考えているんです?」


「霧島君の手助けをするのさ。本人は言い出しにくいだろうから、仲立ちとして

霧島家と須藤家の橋渡しをするんだよ。彼も古い友人なら頼みやすいだろう?」


「古い友人って、学生の頃ほとんど接点がなかったのに先輩も言いますね。 

それで須藤社長に会おうっていうんですか。大胆なことを考えますね」


「使えるものは何でも使うんだよ。ぶつぶつ言わず、早くアポをとってくれ」


「わかりました。ホント人使いが荒いんだからな。

今回のことが上手くいったら、僕にも褒美をくださいよ」


「あぁ、成功したらな」



平岡の手配で、翌々日には霧島君に会うことができた。

思ったとおり、こちらの申し出に恐縮しながらも、彼はいたく感謝していた。



「平岡君から聞いたよ。僕の方は願ってもないことだ。 

叔母たちは僕の縁談で向こうとの事業展開を望んでいたようなので、

それはそのまま推し進めてもらたいと思っている。

珠貴さんとの話は、こちらから須藤家へ一方的に断りを入れることになるので、

詫びのつもりもあるんだが……都合の良い話だろうか」



生真面目な霧島君は、さも言いにくそうに家の事情を話してくれた。

須藤家にも叔母にも、そして婚約者にも面目の立つようにしたい、と言うのが

彼の意向だった。



「そんなことはない。

新事業の提案は 『SUDO』 にとってもメリットがある。 

何も無理に縁談をすすめる必要はなかったということだ。

それに、君の詫びたいという姿勢はより良い効果を生み出すはずだ。

叔母さまには多少悪者になっていただくが、それも甥を思ってのことだったと、

向こうだって理解してくれるさ」


「近衛君には世話になるよ。こうして仲立ちをしてもらえるのは嬉しいが、

君に何かメリットがあるのかな?」


「おおいにあるよ。須藤社長にお会いできる、これが何よりだからね」


「では、君の会社も 『SUDO』 側と何か考えている……

ということなのかな?」


「うん、まぁ……具体化したら君にも力を借りるかもしれない。

そのときは頼むよ」


「もちろんだとも、何をおいても力になるつもりだ」



こうして、霧島君の代理として須藤家のパーティー会場に乗り込むことが

できたのだった。



「これから、どこに付き合うんですか?」 と、運転席の平岡は信号停止直後、

ルームミラーで私に問いかけてきた。

会社に戻って部屋で話そうというと、休みの日に出社も悪くないですね。

密談にはもってこいの場所ですよと楽しそうな顔がミラーに写っていた。



                              
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