ボレロ - 第二楽章 -


食後のテーブルに香りのよい紅茶が運ばれてきた。

疲れると、私はコーヒーより紅茶を好む。

添えられたクッキーもほど良い甘さで、さっくりとした食感が私好みだった。

隣りに座った珠貴もティーカップを手に、食後のひとときを楽しんでいる。

いい香りねと、同意を求めるように見つめた目がふいに表情を変えた。  

カップを置いた珠貴の手が、私の口の端に残ったクッキーの欠片をぬぐい、

そのまま唇にふれた。


私はこの機会を逃さなかった。

唇にふれた指先を軽く噛むと 「はあっ……」 と甘い声が彼女の喉からも

れた。

噛んだ指を解放し、その手をつかまえ引き寄せた。

ついばんだ唇は甘く、しっかりと合わせた口にはダージリンの香りが立ち込め

ている。

香りに触発され、さらに深く唇を合わせた。 

もつれるように舌が絡まり、互いの香りが混ざり合い、それが濃厚な刺激と

なった。

私たちはソファに体を横たえ、溶け合うようなキスをくりかえした。

彼女の胸元へ滑り込んだ手は拒まれることなく、易々と胸の頂点へとたどり

着く。

珠貴は目を閉じて私にすべてを委ねていたが、熱い息を吐きながら残念なこと

を伝えてきた。



「帰らなきゃ……」


「わかった」



言葉と裏腹に、私の諦めの悪い手はまだ肌をさまよっている。

眉を寄せながら苦しげな声が 「ダメ……」 と私をたしなめた。



「もう少しだけ」


「えぇ……でも、あまり時間がないの」



わがままを言うと、少し譲歩した返事があった。

あらがえない熱にうかされながらも、自分を見失うまいとする珠貴の姿勢は、

私を強く惹き付けるものだった。

胸元から退散したものの、首筋を伝い頬をなで、彼女の肌からいつまでも離れ

ることができなかった。



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