ボレロ - 第二楽章 -
夜中を過ぎても賑やかな声が静まることはなく、話のつきないパーティーは明
け方まで続いた。
その中に私の誕生会も用意されており、サプライズで贈られたケーキと花束に
驚き感激した。
真琴さんから、お誕生日おめでとうございますの言葉のあと、
「ホワイトデーのおりは大変お世話になりました」 と、小さな包みを手渡さ
れた。
流れるように向けられた視線が、部屋の奥に立つ櫻井さんをとらえるとはにか
んだ顔になり、すっとはずされる。
言いがかりをつけられ困っている真琴さんを助けた櫻井さんへ、お礼を贈りた
いのですがと相談されたのはバレンタインデーの頃だった。
真琴さんの思いにこたえたくて、私は二人が直接会えるようにお手伝いをした。
チョコレートは無事に櫻井さんに渡され、お返しにホワイトデーに櫻井さんか
ら食事の誘いがあったと聞いていた。
真琴さんの様子に、まだ何か言いたそうなものを感じ取り、二人だけで話がで
きるようベランダに出た。
昼間は初夏を思わせる陽気になる日もあるが、夜風はまだ冷気を含んでいる。
風を避けるためにベランダの端により、手すりに体を預けるように立つと部屋
の中の様子がよく見えた。
ということは、向こうからもこちらが見えるということ。
私たちの姿をベランダに見つけた櫻井さんが、軽く手を上げ合図を送ってきた。
真琴さんが首をかしげて微笑むと、彼からも微笑が返された。
なんということのない仕草に、二人の間に親密さが見え隠れしていた。
もしかして、その後、お二人のお付き合いが始まったのではと聞いてみたが、
「お食事を何度かご一緒しましたが、おつきあいというほどではなく」 と言
いながらも真琴さんの返事は否定的ではない。
「いままでの私なら、櫻井さんからお礼のお誘いいただいても、
その必要はありません。お気遣いなくと伝えて、
不用意に関わることは避けたはずです。
近衛副社長の秘書の立場としては、櫻井さんからの個人的なお誘いは、
好ましくありませんから……」
「真琴さんならそう考えるでしょうね」
「神経質すぎるのかもしれませんが、何事も先を考えて動いてしまうんです。
面倒なことにならないように、失敗しないようにと、
そんなことにばかり気を配ってしまって……
きっと、母の教えが染み付いているんですね。
母に言われたとおりに歩んできましたから。
でも、私も珠貴さんのように気持ちに素直でありたい、
自分の決めた通りにやってみたいと思うようになりました」
「私のようにですか? 真琴さんには、私がそんなふうに見えるんでね。
上手くいかなくてイライラしたり、迷ってばかりなのに」
「私は迷う前に諦めるんです。これは無理、私にはできないと、
始める前に思い込んでいました。
副社長……ここでは宗一郎さんとお呼びしてもいいですね。
こんなこと失礼な言い方かもしれませんが……リスクのあるお付き合いなのに、
宗一郎さんへ真っ直ぐ気持ちを向けられる珠貴さんが、私には、眩しくて、
羨ましくて」
「真琴さん」
今夜の真琴さんは饒舌だった。
今まで抑えていた気持ちをはきだすように、言葉がこぼれてくる。