ボレロ - 第二楽章 -
いつの舞台なの? 演出家は誰? と質問攻めにすると、宗は苦々しいままの
顔で私の前に包みを出した。
「あけてもいい?」
「どうぞ。俺には、どれがいいのかわからないから、
全部観てもらおうと思って」
その言葉に、もしやとある予感がうかび、急いでリボンを解いた。
出てきたのは思ったとおり 『シーズンチケット』 だった。
「すごい! なんて言ったらいいの。こんなに嬉しいプレゼントは初めてよ」
「喜んでもらえてよかったよ。
だが、プレゼントがアイツと一緒というのが引っかかる」
「一緒なんかじゃないわ。いつでも見られるのよ、
私の行きたいときに自由に選べるのよ。
何回でも観られるなんてすごいわ。全部観にいこうかしら。
そうよ、全部観ます」
「ははっ、それは良かった。今までのプレゼントのなかで、
一番嬉しそうな顔をしてるね」
「えぇ、嬉しいわ。ありがとう」
プレゼントは、年間を通して劇場に通える、オペラ鑑賞S席のシーズンチケット
だった。
飛びつかんばかりに彼の首に腕を回し、宗の体を抱きしめた。
「こんなに喜んでもらえるのなら、来年もプレゼントはこれにするよ。いい?」
「もちろん」
「その次の年も、ずっと同じでも?」
「いいわよ」
宗の手が私の頬にふれ、ゆっくりと重ねた唇が離れると、優しい目が真剣なま
なざしに変わった。
「今年は転機の年にしたい。一年後は、今とは違うものにしたいと思っている」
「一年後、何か変わるの?」
「いまは言えないが、具体的な形になったら必ず教えるよ」
「何を考えているの? って聞いても教えてもらえないのね」
「うん……」
「もしかして、またみなさんと悪巧み、とか」
「そうだな、場合によっては彼らの力を借りるかもしれないが、
できるところまで一人でやりたいと思っている」
「私は手伝わせてもらえないの?」
「もちろん君の力は必要だ。二人のことだから……その時がきたら」
「わかったわ」
その時がきたら……
この言葉が、どれほど大事なものだったのか、このときの私はまだ気がついて
いなかった。