ボレロ - 第二楽章 -
地下駐車場からエレベーターで部屋へと向かう。
無言の私に気まずい顔をしていた珠貴が、部屋に入ったとたん表情を変えた。
「あら、いい香り。もしかして、お食事がまだ……」
「途中だった。ほとんど食べたあとだよ。君は済んだんだろう?」
「一応ね。でも食欲がなくて、あまり食べてないの」
「まだ体調が悪いのか」
やはりそうなのか。
もしかしての強い思いがこみ上げて、これ以上待てなくなった。
「珠貴、体調が悪い理由はなんだ。
この前だってそうだ、食べられなくてほとんど残した。
君の体が心配でならないんだ」
「理由と言われても……体が受け付けないの。そんなことってあるでしょう?
シャンタンのときは、あなたのことがあったから……
マスコミに追いかけられていると聞いて、ずいぶん心配したのよ。
それに真琴さんの噂も少し気になっていたの。
うぅん、少しじゃない、すごく気になってた。
沢渡さんも心配してくださって、ストレスからくる体調不良だから、
食事も無理はしないようにって」
「……俺のせいだな」
「うーん、違うとは言えないわね。
今夜の食欲不振も、あなたが原因だったのよ」
「今夜? どうして」
「急な接待だと言うから父についていったら、
実は櫻井さんと彼のお父様との会食だったの。
不意打ちですから、私にとって楽しい席ではなかったわ。
それがね……ふふっ」
何かを思い出したのか、話の腰を折るように笑い出し、ひとりで笑いを楽しん
でいる。