ボレロ - 第二楽章 -
十六夜の月も風情のあるもの。
観月の会の翌日の夕食後のひとときは、いつもと違う風景になっていた。
両親は出かけており、妹と二人で夕食をすませると、私はまた月を眺めていた。
紗妃はテレビを見るでもなく、かといって自分の部屋に行く様子もない。
私に何か言いたそうで、ちらちらとこちらを見ながら落ち着かない。
また、何かが欲しいとか、そんなことだろうと私は気づかぬ振りをしていた。
「知ってる?」
「何を?」
「ものや思ふと 人の問ふまで……の上の句」
「しのぶれど 色に出にけり我が恋は……でしょう」
「さすが」
「百人一首くらい知ってるわよ」
「だよね……」
いつもの紗妃らしくない様子に訝しげな顔を向けると、ようやく口を開いた。
「近衛さんが、おにいさまだったらいいのに」
「突然どうしたの。変な子ね」
妹の言いたいことはわかっていたが、認めるわけにはいかない。
「近衛さんといる珠貴ちゃん……歌のとおりだなぁって思ったの。それだけ」
「紗妃ちゃん」
おやすみと最後に付け加え、妹は走るようにリビングを出て行った。
ひとり残された空間は、ただ広く静かだった。
けれど、静けさに寂しさはなく温かい空気が残されていた。
広いリビングを見渡しながら、妹と女同士の話をする日も近いのかもしれ
ないと、そんなことを思った
『しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は
ものや思ふと 人の問ふまで』 平兼盛
現代語訳・・・他人には気付かれないように耐え忍んできたけれど、
顔色に出てしまっている私の恋
周りの人が「恋をしているのですか」と他人が問うほどまで