ストロベリーショートケーキ
するりと、安達の胸ぐらにあった自分の手から力が抜けた。

そのままの勢いで、安達は床に尻もちをつく。


――ああ、やってしまった。

よりによって、彼女の目の前で。


激しい後悔と罪悪感の中、先に動いたのは、佐倉だった。

となりにいた友達らしき人物に持っていた教科書類を押しつけると、人波をぬってつかつかとこちらに近づいてくる。

その姿を見た瞬間、俺は思わず視線を床に落とした。


……だってどう考えても、この状況で非がある者は一目瞭然で。

もう俺は、彼女に近づく権利さえないと、思ったんだ。


――それなのに。



「……花井くん!」

「え、」

「トーコ……?」



彼女は、俺の名前を呼んだ。

そしてそのまま俺の左手首を掴むと、引っぱるようにして俺を喧騒の中から連れだした。

俺は、ただ驚いて。自分より一回りも小さな彼女に、されるがままだ。
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