ストロベリーショートケーキ
ごめんなさい。そう続けようとした言葉は、のどの奥へと消えた。

なぜならば、それまで黙っていた花井くんの唇によって、塞がれてしまったからだ。

あたしは突然のことに、目を見開いたままで。

スローモーションのように離れていく彼の顔を、ただ呆然を見上げていた。



「……ありがとう、佐倉」



たぶん、真っ赤な顔をして固まっているあたしの両手を、ぎゅっと握りながら。

そう言って花井くんは、あたしが今まで見た中で1番うれしそうな表情で笑った。



「佐倉は、いろいろ考えてくれてるみたいだけど。……俺は、佐倉にだけ本当の自分のことを知ってもらえてたら、それだけでいいんだ」

「は、ないくん、」

「……佐倉、すきだよ」



言いながら、あたしの両手を握る手に少しだけ力を込めて。

彼は、とても穏やかな笑顔を見せる。



「……ッ、」



あたしはもう、胸がいっぱいで。

さっきまでとは違う涙が、また頬をつたった。


――ああ、やっぱり花井くんの手は、魔法の手だ。

だってこんなにも、あたしの心をやわらかく溶かしていく。
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