竜の唄
「リオ、本を拾ってちょうだい。…あのねえ、ロゼがかわいいのはわかるけど、やっぱりこの子も恋をしなくちゃ! 17よ!? 華の17歳よ!!?」
大げさに両手を広げて言ったイヴに、今度はロゼが白けた顔をした。
全くもってなにを言っているのだ、この三十路は。
「姉ちゃんは17歳に限らずいつでも美人だけど!! だからこそどこの誰とも知れぬヤツにはやれん!! 姉ちゃん、それどんなヤツ!!?」
そして同じく馬鹿な弟リオは、姉と同じ色の目をこれでもかとばかりに見開き、そして同じ色のふわふわした髪がボサボサになったままに、イヴに言われた通り本を拾い上げた。
律儀にきちんと払うことも忘れない。
「ど、どんなヤツって…」
聞かれて今日はじめて会った、彼を思いだす。
優しく細められた夜色の瞳、柔らかそうな長めの明るい茶髪、そしてどこか安心する、中低音の、声。
「…や、優しそうな人だったわ…」
「やめてー! 顔赤くしながら言わないでくれ姉ちゃんー!! イヴ! そいつ何て名前だ!? 僕がしばき倒しに行ってやる!!!」
今にも駆け出しそうな勢いでソファから身を乗り出すリオに、イヴはクスクス笑ってさあねえ、と答えた。
やめなさい、とまだ顔が赤いまま一歳年下の弟を叱り、ロゼは落ち着くためにも紅茶をひとすすりする。