竜の唄
そして、お遣いを承った姉弟はというと。
「またしてやられたわね」
「うーん、別にいいんじゃない?」
イヴの思惑にもちろん気付いており、二人して苦笑しながら廊下を歩いていた。
あまり出掛けない自分たちを見かねてか、イヴはよくああやってお遣いやら手紙を出してきてやら言って二人を外に出す。
そうなる前に自ら出掛ければいいのだろうが、ああやって三人でお茶するのが好きだし、イヴにそうやって追いやられてからでいいかな、と二人は少し甘えているのだ。
「いつものお茶のお店と、本屋さんと、あとどこか行きたいところはある?」
「うーん、僕は別に。イヴになんか買って行こうよ」
「じゃあイチゴを買って行きましょ。今が旬だし、ジャムにしてお茶会で出したいわ」
「ナイス姉ちゃん!!!」
さすが姉ちゃんだわー、とか言うリオに、ロゼは苦笑いしか返せない。
多分これをもしイアンが言ったとして、彼には「は?」とか言う冷たい言葉を浴びせるのだろう。
二人は絶対に会わせないようにしよう、とロゼは密かに心の中で誓った。
その横で何かに気付いたのか、リオがあ、と声を漏らす。
「フローラ先生だ。こんちはー」
魔法学部の女性教師、フローラが廊下の先からこちらに向かって歩いてきていた。
彼女は挨拶したリオに気付いて、あらこんにちは、と優しく微笑む。
彼女は今年この学園にやって来た新米教師で、肩の長さまである淡い桃色のふんわりした髪とくりっとした茶色い瞳という可愛らしい容姿から、男子生徒に大分な人気を誇っている。
魔法薬学の先生のお手伝いをしていて、直にその授業を任されることになっていた。
魔法学部は学年内の成績順でクラス分けがなされ、当然のごとくリオはそのトップのクラスにいるのだが、彼女はそのクラスの副担任も任されている。