竜の唄
広大な学園から城下町に向かうだけで、大分時間はかかる。
まだ陽が高いうちに敷地を出た二人はゆっくり喋りながら歩き、カフェで休憩を挟んだりしながら、目的の物を買って行った。
たまにもの珍しそうに顔だけ知っているような学生が見てくるが、それもいつものこと。
リオやイヴといるときだけはそんなこともどうでもよくなるロゼは、弟が腕に抱えた袋を見ながら少しだけ微笑んだ。
「紅茶の葉と、抹茶と、クリームと、イチゴと…。うん、大体揃ったわね」
ちなみにこれらすべて、先のお茶会で使うための物である。
「じゃあ最後に本屋だな!」
重いからと後回しにしていた本日最大の楽しみに、リオが黒縁眼鏡の奥の目をキラキラと輝かせた。
そうね、とこちらも心なしかウキウキしているロゼは、もはや隅々まで覚えてしまった本屋までの道を、あっちへこっちへと眺めながら歩いていく。
お洒落な洋服屋さんや可愛らしい雑貨屋さんなんかもあるが、それよりもロゼが欲しい物はやはり本。
店の中できゃっきゃと喜ぶ女子生徒には目もくれずに、彼女はひたすらに弟と書店へと歩みを進めた。
と、不意にその視線が一点に留まる。
「…あ」
「ん? 姉ちゃん?」
思わず立ち止まりかけたロゼに、リオが不思議そうに声をかけた。
彼女の視線の先には、王都郵便局のこじんまりとした城下町支店。
ロゼやリオも、イヴのお遣いでたまに使う場所だ。
その店の中に、先日知り合ったばかりの演習のペア。
つまり、イアンがいた。