竜の唄
イアンは何やら受付のお兄さんと談笑している様子。
たまに見かける肌が黒く背の高いその男の人は、無愛想だし声が低いしでロゼは怖い人の部類に入れているのだが、彼はイアンに白い歯を見せて笑っている。
イアンもイアンで、あの人懐こそうな笑顔でとても楽しそうに喋っていた。
私服を着ていて、制服姿しか知らなかったロゼはなんだか新鮮な気持ちになりながらその様子を見守る。
歩みの遅くなったロゼにリオが不思議そうにキョロキョロしているが、そんなことにも気が付かなかった。
顔なじみなのかな、と考え、そして二人の手元に封筒があるのを見て、ロゼはぱちぱちと目を瞬く。
(ああ、手紙を出すのね。そうよね、郵便局なんだから。)
でも、
…誰にかしら?
「なあ、姉ちゃん? 何してんだよ」
「あ、ううん、何でもないわ」
「…そう?」
リオには訝しまれたが、気付かれてはたまらないとロゼは慌てて弟の背を押しその場を去った。
よくよく考えたら、休日に城下町にいるなんて珍しいことでもなんでもない。
手紙だって、彼が誰に出そうと関係ないではないか。
なにじっくり観察してるのよ、とロゼは勝手に一人で真っ赤になった。
幸いロゼに背を向けているリオには、それは見えていない。
「姉ちゃんー?」
「何でもないったら!」
「いや、そうじゃなくて、本屋過ぎたけど」
「えっ」
慌てて引き返す姉に、リオは何かを察したのかムッとして彼女を睨んだ。
「イケメンでも見つけたのか!?」
「はあッ!?」
「姉ちゃん実は面食いだろ! 知ってるんだからな!」
「う、うるさい! そんなんじゃないから!!」
嘘だ、と喚きたてるリオの頭をはたき、ロゼはごまかすように目的の店へ逃げ込んだ。
本さえあればリオは大人しくなる。