竜の唄
「ニベリア領って知ってるか?」
「“太陽の沈む町”のある?」
リアスの問いかけに、ロゼは即座に聞き返した。
“太陽の沈む町”。
大陸の西端に位置する小さな小さな町で、沈む夕陽が街を染め上げる様はとても見ごたえのある絶景だと本で読んだことがある。
中でも町の外れにある泉で見る夕陽が、この世の物とは思えぬほど美しいとか。
「そう、まさにその町がニベリアで、俺たちの故郷なんだ。遠いうえに山越えしなくちゃならなくてな。列車はあるんだが、そんなところに郵便物出すのなんて俺とイアンくらいだから」
さすがに学園支局では届けてくれないみたいなんだ、とリアスはめんどくさいもんだなと頭を掻いた。
ロゼは呆けたような顔をしながら、そういえば、とイアンとの会話を思い出す。
「イアンが言ってました。…リアス先生が、この学園に連れてきてくれたって」
「ん? あー、そうだなあ。かなり抵抗されたけどなー。苦労したよ」
でもあそこに置いとくには勿体ないと思ってな、とはにかむリアス。
連れてきて正解だったよ、頭はあまりよろしくないが、と少し余計なことを付け足した。
「どうも覚える系の勉強が苦手みたいでなあ。そうだフィオーレ、教えてやってくれよ」
「えっ、えっ!? そんな、学部だって違いますし…!!」
「ダメだ許さん姉ちゃんは渡さん!!!」
むすっとしながらも話を黙って聞いていたリオが、ついに口を挟みそして怒った。
堂々のシスコン発揮である。
黒縁眼鏡の奥の目を吊り上げて、ダメだダメだと姉に言う。