竜の唄
「ふふ、ねえ、ニベリアってどんなところなの?」
ほっこり温かい気持ちを抱えつつ聞けば、イアンはあまりそういった質問を受けたことがないのか、うーん、と唸った。
そうしてやっぱり、と呟いたあと、やんわり夜色の目を細める。
その表情が何故だか大人っぽくて、ロゼは少しどきりとした。
すぐにふふ、と小さく笑って少年に戻った彼は、脳裏に慣れ親しんだ景色を思い浮かべながらゆっくりと話す。
「印象に残るのは、自然と夕陽と、水かな」
「え、…夕陽は有名だけど…、水?」
「うん。近くに山と海と泉があって、いろんなところから水を引いてるんだ。その水路がところどころ地上にあって、おもしろい」
それが夕陽に染まるのが特に綺麗なんだ、と心底嬉しそうに教えてくれるイアンに、ロゼはいいなあ、行ってみたい、と微笑んだ。
すると彼は先程の大人っぽさはどこへやら、目を輝かせて、体ごとこちらに向けて手を大きく広げる。
「いつか来いよ、もてなすからさ! いっぱいいいところ案内してやる!」
「え、ほ、本当?」
「おう!任せろ!」
もしそうなったら楽しそう!
ロゼはイアンに負けないくらいぱあっと表情を輝かせ、頷いてお願いね、とこちらもうきうきして告げた。
何故だか一瞬固まった後しっかり大きく頷いたイアンは、再び前を向いたあとそういえば、とロゼにも同じ話をふる。
「ロゼの故郷は? どんなところなんだ?」
その言葉に、少女の顔から笑みが剥がれ落ちた。
幸か不幸か、前を向く少年はそれには気が付かない。
「……私は…」
「ん?」
俯いたロゼが小さく言葉を発して、イアンはよく聞こうと彼女へ顔を向けようとする。
が、その瞬間レレノアの鋭い声が響き、イアンは反射的にまた前へと視線を持って行かれた。
「着いたぞ! 郊外だ!」