竜の唄
イアンとロゼも同時に走り出し、荒野で魔物の姿を探す。
ちらほらと影が見えるが、多くが話題の森の方向にいるようだ。
「森から出てきてるってのは本当みたいだな」
「え? 見えるの?」
「あっちに」
どうやらロゼには見えていなかったらしく、イアンはその方角を指差したがイマイチわかってもらえなかった。
ノイドがいたならば、また野生の勘とか皮肉を言われそうだ。
「なら、とりあえず森の周辺に向かってみましょう」
「おっけ」
小走りでそちらへ向かうが、他のペアは誰もこちらに来ない。
まずは荒野にいる魔物の強さを確かめてから、ということなのだろう。
前で真っ直ぐ森へ走る背中を見つめて、ロゼはやっぱり突入することになるのかしら、と苦笑した。
そうして、森の手前までやって来たところで、追いかけていた背中がピタリと動きを止める。
どうやら魔物のお出ましのようだ。
「よっしゃ、やるぞ!」
すらり、と剣を抜き構えた彼に倣い、ロゼも杖を出して思考を切り替えた。
出くわした魔物は5体。
オオカミのような形をしたそれらは、群れをなして行動しているようだ。
この群れが増えているのが、魔物増殖の原因だろう。
そのオオカミの魔物もこちらに気付き、逃げるどころか向かってきて草の陰で低く姿勢を保ち、牙を見せ唸ってきた。
「攻撃的な魔物ね…。繁殖期で気が立ってるのかしら」
「だから排除依頼が出たんだろうな」
こればっかりは仕方がない。
あまりそういったことを好まないであろうロゼに、イアンは苦笑を返した。
魔物も言うなればただの動物。
ただ人と比べれば低い知能で魔力を持ってしまったために、理性が働かず力を持て余して攻撃的になることがあるのだ。
排除依頼が出るのはこの類の魔物。
やらなければこちらがやられる。
そういう生き物なのだ。