竜の唄
スタートを切ったのは、魔物からだった。
勢いよく地面を蹴り、前にいたイアンに草陰から一斉に飛びかかる。
大きく開けた口から覗いた牙に、ロゼが顔をしかめた。
あんなものに一斉に噛まれたら、痛いどころか大怪我だ。
「イアン」
「大丈夫」
ひゅん、と剣を一振りし、イアンも腰を低くした。
そのまま後ろに飛びのき、獲物に避けられた魔物たちがお互いに衝突しないよう急ブレーキをかけたところで、駆け出し斬撃を浴びせていく。
ロゼも魔法陣を出し、小さな火の魔術を撃ち出した。
イアンが一匹ずつ斬りつけ、隙をついてロゼが火の玉で追い討ちをかけ、確実に魔物の体力を減らしていく。
(……やっぱり…)
戦いながら、ロゼはイアンを眺めふむ、と考えた。
実習を重ねてその都度思ったが、イアンは人と共に戦うことが何より向いているようだ。
先程は後衛のロゼが魔術で守っている、とカノンが言っていたが、ロゼはむしろイアンがロゼを守っている気がしてならなかった。
ロゼのもとへ魔物が行かないように、確実に彼女に近い魔物から順番に斬りかかっているし、魔術が当たりやすいように怯ませて隙を作っている。
確かに突っ走る傾向はあるが、彼は守りながらの戦いというものを知っている。
そんな気がした。
だがそれは、技術力重視の学園でそうそう身に着くものではない。
何より彼は考えるのが苦手だ。
きっと無意識に、体で覚えたことを実行している。
剣術のことなどよくわからないが、他の剣を武器にする学部生とは少し動きも違う気がする。
(…学園に来る前から、剣をとっていたってことかしら)
リアスが見込んだというのなら、きっとそうなのだろう。
見込むにはまず彼が戦っているところを見なければならない。
一体どこでそんな技術を、と不思議に思いながら、ロゼはまた魔術を繰り出した。