きみと泳ぐ、夏色の明日


川の中に入るとひんやりと冷たくて、気温が暑いから丁度いい。


「姉ちゃん、本当に1回だけにしなよ。俺も今日は泳がずに浅瀬で遊ぶからさ」

「分かってるって」

スイスイと深い場所まで泳いで、岩場に到着した。他の子と同じように順番待ちをして、ついに私たちの番。 

最初に飛び降りたのは海斗でバシャーン!と水しぶきが上がる。


「姉ちゃん気を付けてね!」

下で海斗が手を振っていた。

ここで宙返りでも披露したら、きっと注目の的になるんだろうけど、残念ながら私に飛びこみの技術はない。

私は岩場の先端に立った。

上はペンキで塗ったみたいな青空。囲まれている山からは爽やかな風が吹き抜けて気持ちいい。

助走をつけて思いきり飛び降りるとバシャーン!と大きな水しぶきが上がった。


「はは、楽しいー!」

頭まで被った水がポタポタと髪をつたって流れてきて、私は手で顔を拭いた。


「じゃあ、終わりにして向こうに……」

「え、なに言ってるの?」

私は戻ろうとする海斗を無視して、また岩場に登りはじめた。


「だって1回って約束じゃ……」

海斗は真面目すぎる。

こんな場所で遊べることなんて滅多にないんだし、お父さんたちだって本当に約束を守るなんて思ってないよ。


「海斗だってずっとこの日を楽しみにしてたじゃん。浅瀬でなんか遊んだら水着を持ってきた意味がないよ。海斗も泳ぎたいでしょ?」

「それはそうだけど……」


海斗は心配しすぎなの。

足は痛いけど折れてるわけじゃないんだし、楽しいことをしてたらそんなの忘れちゃう。つまり大したことないってこと。

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