きみと泳ぐ、夏色の明日
距離にして丁度25メートルぐらい。
海斗は後半に伸びるタイプだし、前半に自信がある私はこの距離なら負ける気がしない。
「よーい」と私が声を出す。そして……。
「スタート!」と後ろ足で岩場を同時に蹴った。
バシャッバシャッと海斗が水掻きをするたびにその波が私のほうにくる。
普段泳いでいるスイミングのプールとは違って、コースを区切るものはないし、視界もわるいけど、水に慣れているせいか問題はない。
25メートルはあっという間でほぼ同時にタッチしたけど、わずかな差で海斗のほうが早かった。
「あーもう、負けた!」
スタートさえ失敗しなければ絶対私が勝ってたのに。
「へへ、なにか賭けるって言ったよね?アイスでも今度買ってもらおうかな」
得意気な海斗に私は納得がいかない。だってスタートの時に岩の緑色の苔が滑ってうまく蹴れなかったから。
「じゃあ、もう1回だけ勝負しよう!コースは今と一緒。泳いできた場所に戻るだけ。ね?」
海斗は「またもう1回?」と呆れた顔をしてたけど、悔しいんだから仕方がない。
「でもさ、やめたほうがよくない?雲行きが怪しくなってきたよ」
そう言って海斗が空を指さす。
たしかにさっきまで燦々と晴れていたのに、太陽は雲の中に隠れて灰色の空になっていた。