きみと泳ぐ、夏色の明日


「――姉ちゃん!!」

遠くで海斗の声が聞こえた。

激しい水しぶきの中、海斗がこっちに戻ってくる。


ああ、海斗は泳ぎきったんだ。さすがだな。

これじゃ勝てるわけがない。私はバカだな……。


薄れる意識の中でゴーッという音だけが響いていた。

体が水の中へと落ちていく。

髪の毛だけが重力に逆らって上にのぼっていき、ブクブクと体にあった空気が少しずつ吐き出される。


意識がなくなる。不思議と苦しくはない。


その時、水中で私に伸びてくる長い手。

薄れゆく意識の中で海斗だってわかった。


海斗、海斗。死にたくない。

私、死にたくない……。

残った気力でその手を掴んだ。


「……かはっ!!」

水面に戻ってきた顔。

大きく息を吸って、呼吸を整えた。


「か、海斗……」

「ハア……ハア……だ、大丈夫?姉ちゃん?」

私の体をがっちりと掴んでいる海斗の顔を真っ青。

当然だ。まだ小学6年生なのに自分よりも大きな私を水中で引っ張って。しかも私は酸素不足と足の痛さでほぼ力が入らない。

全体重を海斗に預けてるといっていいほど、脱け殻のようにぼーっとしている。     

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