きみと泳ぐ、夏色の明日
海斗は息を切らせながらゴール地点だった岩場へと私を連れていく。運よく尖った場所があって、私はそこにしがみついた。
「ハア……いま父さんがこっちに向かってきてるから……」
陸では大人たちが大騒ぎで、お母さんはずっと私たちの名前を呼びながら「早く助けて!」と叫んでいる。
もう、大丈夫だ。
お父さんと他の大人たちもこっちに泳いできている。
「ありがとう。海斗……。海斗?」
ふと隣を見ると海斗がどこにもいない。
あるのはブクブクッと水中からのぼってくる気泡だけ。
「海……斗?」
とっさに顔を水につけると目を瞑る海斗が深い場所に沈んでいく。
「海斗っ!!」
手を伸ばすとその指先にわずかに触れられただけで、その距離はどんどん離れていく。
嘘、なんで、どうして……?
「だれか!だれか早く!海斗を助けて!だれか!!」
そこから私の記憶はプツリと途切れている。
覚えているのは海斗の体を引き上げたのはお父さんではなく数時間後にきたレスキュー隊員だったということ。
海斗は私をムリして助けたことで酸欠状態になり、意識を失ったまま沈んでしまったこと。
そして、延命措置はおこなわず、陸に上げられた海斗の顔は眠るように綺麗だったこと。
私はただ、震えるだけ。
お父さんとお母さんの悲鳴にも似た泣き声も聞こえないほど、ただ震えるだけだった。
あれから4年経っても、私の後悔は消えない。
どうして川に行ったのか。
どうして川に入ったのか。
どうして競争しようと言ったのか。
間違っていたのは私。
なんの罪もない海斗が罰を受けてしまった。
あの恐怖と光景が今も焼きついて離れない。
好きなものが嫌いになった。
大好きだったものが怖くなった。
大切だった人がいなくなった。
――『そんなに責任感じるなって。間宮のせいじゃねーよ』
違うよ。須賀。
私はかばわれる価値なんてないの。
私のせいでだれかの夢を奪ってしまうことが、
生かされるよりずっと苦しい。