きみと泳ぐ、夏色の明日
おそらくこれは巻いてという意味なのだろう。
巻き方なんて知らないけど。
「素人だからすぐまた取れちゃうかもよ」
「いいよ。気休め程度だから」
私たちはトレーニングルームからプールサイドに移動した。須賀は上半身の服を脱いで真正面に座っている。
サポーターが取れた場所は腫れもなく正常に見えるけど、まだ安静だし腕も上げられない。
「ここ、まだ痛む?」
私はそっと須賀に触った。
もし、須賀がかばわなかったら確実にボールは私に当たっていた。それは頭なのか背中なのか分からないけれど、きっと脱臼だけは済まなかっただろう。
「間宮の手って熱いな」
「なにそれ」
須賀がおかしなことを言い出すから、私はすぐに手を離した。
「魚って素手で触ると火傷するんだよ。人間の体温って熱いから」
「……須賀は魚なの?」
「はは、そうかも」
真正面で笑う須賀をはじめて見た。
いや、ずっと直視するのを避けていたのは私のほう。
「……泳ぎたいでしょ?」
目の前にはプール。
たかが2週間でも須賀にとっては永遠に感じるほど長いんじゃないかな。だって須賀は陸の上にいるよりも水の中にいるほうがずっと生き生きとしていた。
私の頭の中にいる須賀はいつも、いつだって泳いでいて。
水影がゆらゆら揺れている水面で、仰向けになって音もなく浮いていられるぐらい水と一体化できる。
……なんだっけ。こういうの。
たしか昔聞いたことがある。
魚と水が切り離せないように密な関係のことを例えた言葉。
そう、〝水魚の交わり〟
須賀は水から離れられない。
水の中でしか生きられないような、そんな人。