きみと泳ぐ、夏色の明日
「……泳げるようになったの?」
まだ聞き方はぎこちないけど。
「んーまだ。明日病院に行ってオッケーが出たら練習再開って感じかな」
よく見ると須賀は普通に右手を使っているし、
もう生活に支障がないほど回復したみたいだ。
……よかった。
須賀にとっての大事な時間を奪ってしまったことには変わらないけど、それでも取り返しのつかない大ケガじゃなくて本当によかった。
「こんなに長い間泳げないことって今までにあった?」
「2週間はないな。まあ、泳げないっていうか泳ぎたくないってスランプは何度もあるけど」
「スランプ?須賀が?」
私が食いついたのを見て須賀は不適に笑う。
「はは、あるよ。スランプぐらい。俺ぜんぜん完璧じゃねーもん」
夏がはじまった頃は須賀のことなんて誰よりも苦手で、誰よりも嫌いだった。
それは私が勝手に抱(いだ)いた劣等感と海斗への罪の意識。
だけどそれをすべてなくして、須賀という存在を見ると、ただの男の子でただの水泳好きで。泳ぎがうまくて夢に向かって頑張っていて。
そして強さも弱さも持っている人。
「泳ぐのを嫌いになってまた好きになってまた嫌いになる。だけど行き着くのはいつも好きって答えだけ」
……ドクンッと心臓が鼓動したのは、須賀があまりにいい顔をしていたことと。もうひとつ。
私の行き着く答えはなにかってこと。