きみと泳ぐ、夏色の明日


「お、金魚すくいがあるよ。やる?」

須賀が突然足を止めた。

そこには赤い小さな金魚が右へ左へ泳いでいた。


「え?私はやらないよ」

昔から金魚すくいは取れたことがない。

いつもすぐに穴が空いて、リベンジしても結果は同じ。金魚をすくうにはコツがあるらしいけどなんだっけ。

教えてもらったのに忘れちゃった。


「おっちゃん。1回ね」

「はいよ」

須賀はお金を払って、しゃがみこんだ。

もしかして金魚すくいが得意とか?たまにいるよね。ホイホイとあっという間に何匹も取れる人。


須賀は真剣な顔をして紙をそっと水に浸けた。

その上に金魚が泳いできて持ち上げると、あっさり大きな穴が空いてしまった。

どうやら得意ではなかったらしい。


「もう1回!」

悔しかったのか須賀はまた100円を出す。

そしてすぐに破れる。


「あーくそ。もう少しだったのに……!」

「下手くそ」

私がそう言うと須賀は珍しくムスッとしてまたお金を出した。


……まったく、金魚すくいでなにをやってるんだか。


――『でも私、須賀とすずって似てると思うんだよね』

その時、なぜか前に紗香に言われた言葉を思い出した。


譲らないところ、だっけ。

あの時は意味が理解できなかったけど、今なら少しわかる気がする。

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