きみと泳ぐ、夏色の明日


クルクルと飾りの風車が風で回っていて次に「よっしゃー!」という声が聞こえてきた。

確認するとたしかにお碗には金魚が入っている。

……一匹だけ。

300円あれば熱帯魚のお店できっと一匹以上の金魚は買えたと思う。あまりに嬉しそうにしてるから、さすがに言わないけど。


「ねえ、もう一匹おまけしてよ」

なにやら須賀がおじさんと交渉中。

……須賀って金魚が好きなの?同類意識?


「はい」

金魚すくいの出店の前にあったキャラクターのお面を見ていると、須賀が戻ってきた。

手には透明の袋の中で泳ぐ小さな金魚が二匹。


「なに?」

自慢したいのか、なんなのか、私にそれを差し出している。


「間宮にやる」

「え?は、え?」

私欲しいなんて言ってない。それにあんなに必死で取ってたから須賀が欲しいんじゃなかったの?


「せっかくおまけもしてもらったんだから、須賀が自分で飼いなよ」

「それは一匹じゃ寂しいと思ったから。それに俺が飼うより間宮が飼ったほうが長生きしそうだし」

そう言って、袋のヒモを私に持たせた。

もう、本当に強引っていうか、私はいつも須賀に振り回される。


「……長生きしなくても知らないよ」

そもそもうちに金魚鉢があったかさえ不明だし、生き物は飼ったことがない。

金魚ってなにを食べるの?

そのぐらいなんの知識もないんだから。


「長生きするよ。間宮が飼えば」

その根拠のない自信はどこから来るのか。

袋の中で向き合って泳ぐ金魚を見て、名前を付けようと考えてしまった私は負けだと思う。

< 128 / 164 >

この作品をシェア

pagetop