きみと泳ぐ、夏色の明日


「俺、優勝したよ」

うん。ぜんぶ見てた。

須賀が努力をしていたことも、タイムが伸びずに焦っていたことも、毎日毎日頑張っていた姿を私はいつも見てた。


優勝して、須賀は本当にすごい人になってしまったけど、そこに距離は感じない。

昨日よりも今日。今日よりも今のほうがずっとずっと須賀を近くに感じる。


「俺、間宮が好きだ」

いつも自信満々の須賀が少し自信のない顔をしてる。


「いつからって聞かれると困るんだけど、気づいたらずっと俺の真ん中にいて。泳ぐ前と泳いだあとは必ず間宮のことが頭に浮かぶ」

夕焼けの色と同じ色の顔をして。

いつだって須賀はまっすぐに私を見るんだ。


「だから俺と付き合ってほしい」

あの歓声に負けないぐらい、私の心臓は心地いい音を響かせる。


――答えは?

そう、自分に問いかけた。

答え?

そんなのは考えなくても知っている。


私は一歩ずつ前に進んで、須賀のジャージを強く引っ張った。その反動でグイッと前屈みになったのを見て私は……。


「私も須賀が好き。だからお願いします」

そう言って、自分から唇を重ねた。

ドクンドクンと須賀から鼓動が聞こえてくる。


いつも振り回されてばっかりだから、
たまには困らせてやりたいって思ってた。

そっと離した私は須賀の真っ赤な顔を見て笑う。


「ふ、困ってる」

こんなに動揺してる顔は初めて。

作戦は大成功。


「ば……っか。お前、こういうのは普通男からするっていうか……」

「そんなの知らないし」

暑い夏がもうすぐ終わる。

だけど私たちの関係はこれから、この先も続いていく。


「間宮」

「ん?」

まるで仕返しのように今度は須賀が私の手を引く。

次に真っ赤になったのは私。


きっと、苦しいことも、悲しいことも。

きみとだったら乗り越えていける。


須賀と夏の真ん中で抱き合って、強く繋いだ手がなによりも愛しかった。


――【夏色ブレス END】

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