きみと泳ぐ、夏色の明日
チャイムが鳴り、退屈な数学の授業がはじまった。
勉強は好きじゃないけど、一応ちゃんと取り組んでるつもり。ノートだってしっかり書いてるし、テスト勉強だってしてる。
だって誰かさんと違って勉強しなくてもいい環境にいないから。
「次は36ページの問題。ここの公式は……」
数学の先生の声が教室に響く。
席替えしてから授業中はずいぶんと静かになった。暑さのせいで騒ぐ気力がないのかもしれないけど。
私も黙々と机に向かいシャーペンを走らせていると……。
「あー!!腹へった!」
ビクッと自分の体が跳ねた。隣を見ると机に伏せて寝ていたはずの須賀がのんきに腕を「んー」と伸ばしている。
もちろん、静かな授業中でそんな声が聞こえたらみんな注目しないわけがない。クスクスと笑われてるのに本人は大あくび。
「須賀。寝ててもいいけど授業の邪魔はするな」
なんて、数学の先生も苦笑い。
普通は怒られるんだろうけど、やっぱり須賀は特別扱いなんだよね。
「起きたならたまには答えてみろ」
先生が黒板に書かれている一番簡単な問題を指さした。須賀は目を細めてただひと言。
「その前にその公式の記号が読めないんですけど」
「この記号、中学で習うやつだぞ」
須賀の言葉でみんな大笑い。私は隣で深いため息をついていた。
やっぱり須賀の頭は水でできてるんじゃないのかな。
こんな問題ひとつ解けないのに許されてしまう。私は笑えない。