きみと泳ぐ、夏色の明日
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「じゃあ、すず。また明日ねー」
その日の放課後。紗香はいつもどおり部活に行った。
目標ややりたいことに向かって頑張ってる姿勢はとてもキラキラしていて。だからそんな部活動中の生徒たちを横目にひとりで虚しく帰るだけの自分がいつも以上にくすんで見える。
私の心はあの日で止まったまま。
このベタベタと制服がまとわりつく蒸し暑い日は余計に思い出してしまう。
と、その時。前から大きなスクールバッグを背負った小学生たちとすれ違った。
そこには城西(じょうさい)スイミングスクールと書かれていて、駅前にある大きな水泳教室だ。
バッグのデザイン変わったんだな……なんて、思いつつ。その小学生の後ろ姿をぼんやりと見ながらギュッと胸が締めつけられた。
――『姉ちゃん。平泳ぎでどっちが速いか競争しようよ!』
『アンタ私が平泳ぎ苦手だって知ってて言ってるんでしょ?』
『あは、バレたか』
海斗は本当に明るくて友達も多くて、年齢はひとつしか変わらない年子だったけどいつも〝姉ちゃん〟って慕ってくれていた。
可愛いくて、ムードメーカで、いつも周りを笑顔にしてくれていた。
だから海斗がいなくなって、家の中は暗くなった。
そう感じさせないようにお母さんもお父さんも普通にしてるけど、4年経った今でもあの笑い声が恋しくて仕方がない。
海斗は家族にとって必要な存在だった。
私なんかよりもずっと。