きみと泳ぐ、夏色の明日
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結局私はあのあと保健室には行かずに教室で休んだ。具合が悪いといっても気分的なことだし、校内に入ったら不思議とふらつきはなくなった。
プールの授業が終わったクラスメイトたちは着替え終わった順番に帰ってきて、紗香も戻ってきた。
「すず大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめんね」
みんなの髪の毛はまだ半乾きで、首からタオルを下げながら冷たい飲み物を飲んでいた。そんな中、隣の須賀は教室に戻ってくるなり無言で机に顔を伏せている。
「なんか今日の須賀機嫌わるくない?」
「そお?」
そういえばプールの時も口数は少なかったし、いつもはしゃいでるのにそれがなかったような。
無理やり背泳ぎをさせられたから?
それとも昨日いいタイムが出なかったから?
どっちにしても須賀の機嫌がわるい理由なんて私には関係ないけど。
「ねえ、私聞いたんだけど、今日森谷くんうちの学校に来てるんだって!」
「えー嘘!!なんで?」
ある女子生徒のひと言で教室が一気に騒がしくなった。
……森谷くん?だれそれ。
盛り上がり方からしてどこかのアイドルグループかなんかの人とか?いや、そんな人がうちの学校になんてくるわけないか。
すると寝ていたはずの須賀がガタッ!と乱暴に椅子を引いて教室から出ていった。
「あーあ。地雷踏んじゃったね」
「どういう意味?」
紗香はレモン味のミネラルウォーターを一口飲んで、目を丸くさせた。
「え、すず知らないの?森谷圭吾だよ」
もりたに……けいご?
「水泳の現日本高校生記録保持者だよ」