きみと泳ぐ、夏色の明日
「お、間宮じゃん」
私が向かったのは屋上だった。
昼休みになるとたまに教室から姿を消す須賀がいる場所なんて、ここしかないと思ったから。
日差しがかんかん照りのコンクリートの上で須賀は優雅に仰向けになっていた。
「これ、社会科の先生から」
私はそのまま課題を落とすように須賀の顔へ。
「なに?」
「昼休みまでに書いて職員室まで出しにこいだって」
「はは、なにそれ。ムリじゃん」
せっかく持ってきてあげたのに須賀は課題を見ることなく、寝ている横に置いてしまった。
そんな須賀を私は冷たい目線で見下ろした。
「私はちゃんと頼まれたことは伝えたからね」
これで須賀が怒られようと私には関係ない。
こんな無茶な頼みをする先生もどうかと思うけど、やっぱり課題をやらなかった須賀に責任があるわけだし。
「なあ、昨日水泳部に来てただろ」
「え?」
「きゃーきゃー言ってた野次馬の中にいたじゃん」
なんかすごいイヤな言い方だな。
たしかにいたけど同じにされたくないっていうか……ものすごい心外っていうか。
「あれは付き添いだから」
「へえ」
なんなの、その小馬鹿にしたような返事。
課題を渡したらすぐに立ち去ろうとしてたのに、ドアノブへ伸びた手はいつの間にか下がっていた。
「女子が自分以外の人に群がってたから不機嫌だったんでしょ」
あんな仏頂面で泳いでる姿なんて初めて見た。
「いやいや。そんな理由で不機嫌になるわけねーじゃん」
「じゃ、なんでよ」
「それは……」
気になってないけど、先に突っかかってきたのは須賀だから。ここで立ち去ったらなんか……負けた感じになる。
「森谷は越えなきゃいけない相手だから。ライバルなのに仲良く同じプールで練習したくねーって思って不機嫌だっただけだよ」
せっかくからかってやろうと思ったのに、真っ当な理由だったからなにも言い返せなくなってしまった。