きみと泳ぐ、夏色の明日
越えなきゃいけない相手、か。
個人競技ってライバルがチームじゃなくて人だから明確だよね。自分の実力がタイムで表示されて順位づけされる。
そこまでの道のりや努力なんて関係なく、1位を獲ったひとが一番高い場所で表彰されて、その人以外はだれかに〝負けた〟っていう結果が残る世界。
あんなにストイックで、あんなに水泳のことしか頭にない須賀が一度も勝てたことのない相手。
須賀はこの先の大きな夢より、森谷圭吾を越えなきゃ先はないって、そう思いながら泳いでいる気がする。
「あれ、昨日の……」
学校が終わって帰り道。
私はいつもとは違う駅前を歩いていた。数学のノートがあと1ページしかなくて次の授業に使えないから新しいものを文房具店に買いにきたところだった。
ついでにカラーペンも……とペン売り場に行くと、森谷圭吾と遭遇。
噂をすればというやつだ。
私は軽く頭を下げていつも使ってるペンを取ろうとした時、なぜかそれを止められて別のほうを指さされた。
「この新しく発売したペンのほうが使いやすいよ。値段も安いしインクの減りが遅いよ」
「………」
「って、ごめん。また余計なことだったかな」
「いえ……」
お人好しなのか、お節介なのかよく分からないけど、悪意は感じないし私はおすすめされたペンを買うことにした。