きみと泳ぐ、夏色の明日


結局、不良たちは見掛けだけだったのかすぐにどこかへ行ってしまった。

お礼は言わない。

だってそれ以前にさっきの言葉が引っ掛かったから。


「私はいつから〝須賀〟の彼女になったんですか」

学校以外で会ったのは初めてで、須賀はもちろん私服姿。

なんかいつもとイメージが違うけど、右耳の上の髪の毛がぴょんっと跳ねていて、寝癖なんていつもどおりの須賀だ。


「ああいう場合はそう言うんじゃねーの?」

「そんなの私に聞かれても知らないよ」


私はなんで背中だけで須賀だって分かったんだろう。

自分でもちょっとビックリ。


「これからどっか行くの?」

「なんで須賀に教えなきゃいけないの」

「でたでた」

そのなんとも言えない余裕の笑みにムッとしながら、私は「図書館だよ。文句ある?」と助けられた恩も忘れて睨んでしまった。


「図書館?休みの日に?なんで?」

そりゃ、勉強とは無縁の須賀からしたら信じられないだろうね。でも高校2年の夏に図書館に行くことは珍しいことじゃないよ。

一応、卒業後の進路とかも決めなきゃいけない年齢だし、私は全然考えてないけどさ。


「うーん。じゃ、一緒に行こうぜ」

「は?どこに?図書館?」

「バカ。俺がこれから行く場所にだよ」


……バカとか須賀にだけは絶対言われたくないんですけど。

どこに行くのと聞いても須賀は「いいから」しか言わなくて、一緒に行きたくないと断っても「図書館に行くよりずっと快適だから」と引き下がらない。


ナンパから助けてもらったのに、逆に厄介なヤツに捕まってしまったというか、すごく面倒くさい……。

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