後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「聖女セシリーを教祖とする教団だ。まだそれほどの勢いを持ってるわけじゃないが――死者の声を聞かせてくれるんだそうだ。信者の数は多くない――慎重に招き入れる人間を選んでいるからな」

 エリーシャの肩がぴくりとした。アイラはそれに目をとめて、やるせない気持ちになる。エリーシャは、まだ愛している――二年前に惨殺されたというあの人を。

「そいつが今やっかいになってるのが、レヴァレンド侯爵家の持っている家の一軒だとしたらどう考える?」

「セシリーとやらが、タラゴナ皇室へ入り込もうとしているのかしら。そして女帝ウォリーナに並ぶ存在になろうとしている?」

 タラゴナ帝国の始祖の名を、エリーシャは口にした。

「そんなもんなら可愛いだろ」

 パリィはエリーシャの考えを笑い飛ばした。

「名前を残そうとするくらいなら、可愛いもんさ。裏から帝国を乗っ取る、あるいは操ろうとしてるとしたら?」
「まさか――そこまで愚かじゃないでしょ、皇宮の住民は」

 今度はエリーシャが笑い飛ばす。

「まあ、さすがに教団内部にまでは入り込めなくてな。今回はここまでだ」
「ありがと」

 エリーシャは金貨の入った小袋を彼の手元に滑らせる。

「調査は続けて――こちらから連絡する」
「ごちそうさん」

 来た時と同様にふらりとパリィは立ち去った。
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