後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 皇女宮への出入り口を守っていた騎士たちがぼうっとした目つきでエリーシャを見送っている。

 それに気づいたアイラはくすりと笑い、改めて表情を引き締めるとエリーシャの数歩後ろをついていく。

 後宮から前宮へ入ると、周囲は一気に騒がしくなった。書類を抱えた役人たちがあわただしく行き来している。

 それに皇帝への取り次ぎをもとめる貴族たち。前宮に仕える侍女や侍従といった使用人。
 
 前宮に入るのは初めてだったアイラは、周囲を見回したい誘惑にかられたが、それをこらえて前を行くエリーシャの背中だけを見つめて歩みを進めた。

 エリーシャの肩からかけられた、透けて見えそうなほどに薄い布で作られたショールがひらひらと肘のところで揺れている。

「エリーシャ皇女殿下のお越しです」

 扉のところに控えていた侍従が、エリーシャの訪れを告げる。アイラはエリーシャに続いて、貴族たちとの面談のために使われる部屋に足を踏み入れた。
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