後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「五分だけだ。追いつかれたら困る」
「ライナス様は?」
「彼なら大丈夫――大丈夫だ」

 自分自身が、そう信じようとしているかのようにフェランは言う。

「――行くぞ」

 五分の休憩では、アイラにはぜんぜん足りなかった。けれど、足を引きずるようにして、またフェランに導かれるままに森の奥を目指す。

「どこまで行けば――」
「朝までだ」

 フェランの答えは短い。朝まで何とか逃げ延びるしかない。彼はアイラにそう告げていた。

 動物の声しか聞こえない森の中、逃げ続けるのは怖い。

 握られているフェランの手を、ぎゅっと握ってみても返事はなかった。

「――もうしばらく行けば、少し休めそうだ」

 やがて、フェランがゆっくりと言う。アイラがほっとして大きく息を吐き出した時、肩に鈍い痛みを感じるのと同時に何かに突き飛ばされた。

 フェランとつないでいた手が強引にふりほどかれる。
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