後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「フェラン様!」

 アイラは痛む左肩を押さえながら、よろよろと立ち上がる。フェランはアイラとは逆方向にはねとばされていたようだった。

 彼は立ち上がった時には、もう剣を抜いていた。

「エリーシャ様! お下がりくだ――!」

 アイラの側に駆け寄ってきたフェランは、アイラをかばうようにして立つ。油断なく、彼は左右に注意を向けていた。

 アイラも剣を抜いた。皇宮内にいる時には、スカートの下に隠している短剣二本だが、今は腰に吊った長剣だ。
 
 毎朝エリーシャの稽古につき合って、腕の方は以前より上がっているのはわかる。

 けれど、実際に戦いの場に立つのは初めてで――深呼吸を繰り返しながら、震える手や足を落ち着かせようと努力する。

 異臭がする。
 腐った卵のような。
 
 臭いのもとを探りだそうと、アイラは左右に忙しく視線を走らせた。暗闇の中で見えるはずもないのに。

 ふいにフェランが動いた。
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