後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 左から来た敵と剣を合わせ、すぐに右からきたもう一人に立ち向かう。彼の動きに無駄はなかった。

 いつの間にかアイラも敵と激しく切り結んでいた。震えていた手も、足も、こうなれば覚悟を決めてくれたらしい。

 臭い。

 アイラは顔をしかめながら剣を振り下ろす。相手はアイラの刃を交わしそびれ、アイラは相手の肉体を捉えたのを確かに感じた。
 
 ――いや、確かに捉えたはず、だった。

「いやぁぁぁぁぁ!」

 こんなに甲高い声が、自分の喉から出るなんて思わなかった。手応えが肉を切った時とはまるで違う。

 エリーシャとの稽古では、吊した豚肉に切りつける、という訓練も何度か行った。さすがに生身の人間を切るわけにはいかないから――その手応えとはぜんぜん違う。

 ぐしゃりと崩れた肉体が異臭を放つ。アイラはもう一度、悲鳴を上げた。深々とわき腹に剣を突き立てられて、地面に倒れ込む。

 顔から倒れたのに痛みを感じることもなかった。ただ、刺されたわき腹が熱い。フェランがアイラの名を呼ぶのが聞こえたような気がした。
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