後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 違う違う――こんなの護衛侍女の役目じゃない。影武者だといっても、こんな化け物を相手にするなんて聞いてない。

 アイラの目からぼろぼろと涙が落ちる。立ち上がる気力なんてなかった。

 後宮に上がった時に、剣を持つとは聞いていたけれどこんなことに巻き込まれるなんて聞いてない。

 フェランは正面から来た兵士を、一刀のもとに斬り伏せていた。けれど、斬り伏せられた兵士は、痛がる様子も見せずに、再びフェランに立ち向かってくる。
 
 フェランは敵に囲まれながらも、何とかアイラのもとへとたどりついた。

「……おや、外れを引いたかしら」

 木々の間に長いローブをまとった女が姿を見せる。彼女の表情は、フードに隠れてうかがうことはできなかった。

「皇女を追ってきたつもりだったのにね」

 くすり、と笑うと彼女はアイラの方に指を向ける。フェランがアイラの前に立ちふさがるのにかまわず、女はにこりと微笑んだ。

「偽りの姿を解きなさい!」

 女の指から閃光が走ったように見えた。暗い森の中が一瞬、明るくなる。

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