後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
魔術師たちの対峙
 ジェンセン・ヨーク。アイラの父について、フェランは名前だけは聞いていた。闇の中では色まではわからないが、彼がユージェニーと呼んだ女と同じようにローブをその身にまとっている。

「ジェンセン・ヨーク――ずいぶん探したのよ」

 ユージェニーは、現れた彼に視線を向けた。

 彼の方は、ユージェニーの厳しい視線など意に介する様子もない。

「ああ、フェラン君。悪いんだけど、娘の手当をしてやってくれない? 言っとくけど、嫁入り前だから変なところに触るのは、なしだからね」

 こんな時に何を言っているのだろう――フェランは顔をしかめながらアイラの側にかがみ込む。
 
 フェランは、アイラのブラウスをまくり上げて傷を確かめる。わき腹の刺し傷は深かった。

 苦しげに浅い呼吸を繰り返しているアイラの表情に胸を痛めながら、彼は傷の手当にかかった。とはいっても、この場でできることには限りがあった。

 血止めをし、傷を覆ってやるくらいしかない。後は明日、騎士団の他の面々と再会してからだ。

 それまでアイラの体力が持てばいいのだが。

< 129 / 394 >

この作品をシェア

pagetop