後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「フェラン、遅かったな」

 奥の部屋からライナスが現れる。彼は左の手に包帯を巻いていた。それ以外にたいした怪我はしていないようだ。

「いろいろあったんだ――化け物には遭遇するし、いったい何がどうなっているんだか」

 互いの無事を喜んで、フェランとライナスは互いの腕を軽くたたき合う。

「それはともかく、ジェンセン・ヨーク」

 イヴェリンはずれてもいない眼鏡の位置を二本の指でずらすと、壁際に立ったままぼけっと立っていたアイラの父に呼びかけた。

「皇女殿下を助けてくれたことには感謝するが――どうなっているのか説明してもらえるんだろうな?」
「するする。お茶をよこせとは言わないから、座らせてくれてもいいんじゃないかなぁ」

 普段は食堂として使われている部屋に一同は移動した。

「アイラの様子は見に行かなくていいんですか」

 一応、年長者への敬意を表してフェランは敬語で話しかける。

「んー、それはとりあえず後」
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