後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラは苦笑いした。だいたい相手にしていたのが化け物なのだから、エリーシャの姿を解いたところで逃がしてくれたとは思えない。

「ごめんね。それから、ありがとう――助かった」

 その言葉には、アイラは首を横に振っただけだった。当然のことをしただけだ。

 アイラの仕事は、いざという時エリーシャの影武者を勤めること。けれど、同じ仕事に戻れるかと問われたら自信はない。

 あんな――あんな化け物相手に戦うなんて無理だ。今さらながらに思い出した恐怖に身が震え、と、同時にわき腹の傷が痛んで思わずうなる。

「痛い――? 痛いよね? お医者さん、呼んでくるから!」

 止める間もなく、エリーシャはばたばたと駆けだしていく。

 入れ違いに入り込んできたのは、生き別れの父親だった。

「無事だったんだねぇ、パパ嬉しいよ」

 ふてくされてアイラは、布団の中に潜り込んだ。何が無事だったんだねぇ、だ。昨日の恐怖に父へのいらだちにその他にわからない感情がぐるぐると渦巻いて、まともに父の顔を見ることができない。

「魔術書、皇女宮の方で預かってくれてるんだってな。助かった――それと、だ。言っとかなきゃならないことがある」
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