後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「荷物を運ぶよ。どれ?」

 フェランが手を差し出した。

「……いや、自分で運べますから」

 荷物といっても、着替えや日記に生活用品少々といったところで、たいした量ではない。フェランの手は断って、アイラは鞄を自分で持った。

「女の子に荷物運ばせるのはしのびないんだけどなぁ」

「……くだらないことを言ってないでさっさと乗れ」

 ライナスはアイラを馬車に押し込み、フェランをせかして御者に馬車を出すように命じる。アイラの右隣にフェラン、正面にライナスが腰を下ろした。

「ねぇ、ねぇ、君、彼氏とかいないのー?」
「……はぁ、今のところは」

 何だろう、こいつの緊張感のなさは。アイラはフェランが不愉快で、身体が密着しないようにじりじりと馬車の端の方へと身体をずらす。

 それを見ていたライナスは、軽く肩をすくめたが何も見なかったことにしたようだった。

 馬車の座席は普段乗ってる乗合馬車よりずっと柔らかくて快適だし、中の装飾も立派なのだが落ち着かない。
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